みなさん「フランス料理のスープ」というと、何を思い浮かべますか?
オニオングラタンスープ、海老のビスク、コンソメ、、、といろいろありますが、夏の定番と言えばじゃがいもの冷たいスープ『Vichyssoise(ヴィシソワーズ)』ではないでしょうか。
|ヴィシソワーズとは?
日本でもなじみのあるこのスープは、ニューヨークのリッツカールトンホテルのシェフだったルイ・ディアが、幼少の頃に母親がじゃがいものスープを作った翌日、余ったスープに牛乳を加えて冷たいスープにしていたことからヒントを得て作られたものと言われています。
『Vichyssoise(ヴィシソワーズ)』という名前は、彼の故郷の近くにあった温泉保養地として有名なVichy(ヴィシー)※1という街の名にちなんで名づけられました。
ヴィシーの保養施設の1つ。
手前の青いタイルのところに蛇口があって、そこから飲用の温泉水が出てくるそうです。
じゃがいもは滑らかな食感のメークイーンを使い、ポロねぎの繊細な香りと甘味を加え、優しい味わいのポタージュに仕上げます。クラシックなレシピでは、最後に辛口のシェリー酒※2を加え、Ciboulette(シブレット)※3と呼ばれるハーブを小口切りにしたものを散らしてさわやかな風味をプラスします。
こちらがCiboulette(シブレット)
|Potage(ポタージュ)とは
日本でポタージュというと、ヴィシソワーズのようなとろみのあるスープを連想する方が多いと思いますが、フランス料理でポタージュは汁物全般を指します。コンソメのようなクリアなスープも、濃厚なビスクもフランス料理だと全部ポタージュです。
ちなみに、日本で汁物全般を指すSoupe(スープ)は、フランスでは田舎風のボリュームのあるもの、地方色の濃いもの、家庭的で手が込んでいないポタージュを指し、日本でもおなじみのオニオングラタンスープもスープの一種になります。ややこしい。
ポタージュという言葉は、もともと壺を意味する「Pot(ポ)」という言葉に由来していて、鍋の中に入っているものという意味で、材料を水で煮込んだ料理全般を指す言葉でした。やがて材料だけでなく、材料のうまみが溶けだした煮汁のおいしさが評価されるようになり、洗練されてポタージュと呼ばれるようになりました。
昔は、コースの1項目としてオードヴルの次にポタージュが提供されていましたが、料理に軽さを求める時代の流れとともにポタージュの項目がなくなり、現在では、前菜(Entrée)や最初の一皿(Premier plat)に組み込まれるようになっています。
|じゃがいもと言えばパルマンティエ
フランスでは、じゃがいもを使った料理によく「Parmentier(パルマンティエ)」という言葉がつけられますが、これはフランスの農学者アントワーヌ・オーギュスタン・パルマンティエ(Antoine-Augustin Parmentier)という、フランスにおけるじゃがいも栽培の普及と需要拡大の功労者の名にちなんでいます。
パルマンティエが戦争の捕虜としてドイツにいたとき、これまで毒のあるものと思われていたじゃがいもの有用性を知ります。フランスに戻った後、当時の国王ルイ16世に進言してじゃがいもの研究を続けていた時に食糧難が重なり、それがきっかけでフランス全土にじゃがいも栽培が広がりました。
今では様々な手法で調理され、時には主役に、時にはほかのお料理を引き立てる脇役として、フランス料理に欠かせない食材の一つとなっています。
今回は、夏におすすめの冷製スープ ヴィシソワーズとポタージュのお話でした。
日々のお料理の参考になりましたらうれしいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
参考:プロのためのわかりやすいフランス料理 2版 柴田書店 2024.8.14
※1:リヨン近郊の鉱泉水で有名な土地。この土地の名前が付いたスープでは「Carottes a la vichyssoise(にんじんのヴィシー風)」が有名です。
※2:スペイン産の辛口の酒精強化ワイン。特徴的な香りを持つ。ワインの発酵が終わった後にブランデーを添加して作るので、辛口に仕上がる。糖分を加えた甘口のものもあるが、料理に使うのは辛口。風味を生かしてソースやポタージュの風味付けなどに用いる。
※3:ねぎの仲間だが、香りは比較的穏やかでねぎ類特有の粘りもないため、セルフィーユ同様飾りによく用いる。刻んで卵料理、サラダ、ソース、スープ加えたり、料理の仕上げに散らして、彩りと香りを添える。